これからの10年に中小企業、特に製造業において大きな影響がある経営環境の 変化として以下の4つを上げたいと思います。
①中小企業の大量廃業が始まる
中小企業白書によると、今後10年間で70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は245万人、そのうち約半数の127万人(企業全体の1/3)が後継者未定であり、このまま放置すれば大量の廃業が発生し、22兆円の経済的損失と650万人の雇用が失われると試算されています。
多くの中小企業は地域の経済や雇用のけん引役として、あるいはサプライチェーンの一角を担っているサプライヤーとして重要な役割を果たしています。
後継者対策と事業承継はこれ以上先送りが許されない喫緊の課題です。
高度成長期、需要が拡大していた時期の製造業は、品質(Q)、コスト(C)、納期(D)、の最適化が重要でした。これは今でも変わりはありませんが、今後は更に、CO2排出量の削減(環境価値)や人材供給がネックとなり省力化による生産性向上を意識し、エネルギー高騰、円安による輸入コストの増加にも対応してゆかなければなりません。このような時代で後継者は従来の延長ではなく、新たな挑戦をし続けるイノベーションが求められます。
②ディジタルトランフォーメーションの本格化
ディジタル化の進展
ディジタル化とはひと言でいえば、あらゆるデータをコンピュータで処理できる情報にすることです。
音声やカメラの画像、テキスト等の言語データを一旦ディジタル化すれば情報をコンピュータで複製、加工、記憶等ができそれを人間が認識理解できるようにすることで活用範囲が一気に広がります。
半導体などエレクトロニクスデバイスとインターネットに代表される通信、ソフトウエアの飛躍的な技術進化で一人一人が超高性能の小型コンピュータであるスマートフォンを持てるようになると、いつでも、どこでも知りたい情報にアクセスしたり、コミュニケーションしたり出来るようになりました。
更に、人同士でだけではなく、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTという概念ができ、モノが持つ情報、例えば位置、時間、温度、湿度、圧力、動き、形状等々センサーの発達でディジタル化できるようになり、大量のデータをAIとよばれる高度な人間に近い認識処理手法で分析して推論や予測しロボットや自動化といったことに応用されようとしています。
このようにディジタル化の技術革新でこれまで解決できなかった課題や新しい価値を創造して事業を変革していくことがディジタルトランスフォーメーションです。
そして大量の情報を瞬時に遅延なく送れる5Gという次世代通信が普及すれば、ディジタルトランスフォーメーションがあらゆるところで起こり、加速されていくとされています。
日本政府の取り組みである「インダストリー4.0」、「ソサエティ5.0」のプロジェクトは、少子高齢化、人口減少などによる様々な課題をディジタル技術革新で解決していこうとするものです。
製造業での活用
ITやIoT、AIの製造業への活用として、製造工程での検査の自動化、装置機械の稼働監視、故障予兆と保全、遠隔保守等に始まっています。
これからも、様々な活用が進むと思われますが、大きな転換期に直面している日本の中小製造業においてディジタル情報の活用が求められる必要性を以下に示したいと思います。
[1つ目]
人手不足とベテランの技能伝承の対策 人手不足、ベテランの技能伝承の問題を抱える中小企業にこそディジタル情報の活用で生産性を向上させていくことが必要な時代になっています。
最近は、大企業だけではなく中堅企業でも自社の事業課題に合わせてIoTのシステムを取り入れ可視化することで成果につなげている企業も増えています。
[2つ目]
製品のサービス化 これまでのモノが足りず需要が拡大していた環境では製造業は製品というハードをつくって多くの顧客にそれを売ることで収益を出すのが一般的なビジネスモデルで成長が出来ました。
しかし、モノがあふれている今日ではモノを所有しなくなり製品を頻繁には買わなくなっています。
そのため、消費や需要を喚起して大量に生産し、多くの製品を販売する従来のやり方では収益を伸ばすのが難しくなってきています。
もう、「今月、なんとか製品が売れたら、それでいい」だけの自転車操業的なビジネスをいつまでも続けられる時代ではありません。
又、グローバル化で競争が激化し日本のメーカーは製品のコストとスペック、性能だけで勝てる時代ではなくなってきています。
これからは、ユーザが製品を買う理由を明確に把握し、製品を購入した後にどのように使用しているのか、どのような課題を持ちどのような利便性を求めているのかを知り、「本質的な顧客価値を創造し提供すること」が求められます。
そのためには、製品をサービスとして顧客であるユーザと長期的な関係を通して提供し続けていく事を考えてゆかなければなりません。 これまでは「製品の販売」は、「顧客との関係の終わり」でしたが、これからは「顧客との関係の始まり」となります。
そして製品を販売した後にその製品を使って顧客の目的を最大限に満足させるようなサービスを提供していくことが求められます。これが、「本質的な顧客価値を創造し提供すること」の意味です。
これを「製品のサービス化」と呼びます。
[3つ目]
サブスクリプションビジネスの広がり 最近、サブスクリプションとかリカーリングとかいったビジネスが出て来ていますが、これは継続してサービスを提供し課金するビジネスで製品のサービス化の一つの形態です。
この製品のサービス化を実現するのに、IT、IoT、AI等のディジタル情報技術を使った仕組みを上手く使うことで、より柔軟な形でユーザにサービスを提供したり、ユーザの傾向や嗜好、ニーズを把握し新製品に反映したりできるようになり、本質的な価値を創造し続けることができます。
身近な例では、スマートフォンを買ったときに契約する通信キャリアとのデータ通信や付随するセキュリティやクラウドサービス使用料はまさにサブスクリプションビジネスです。
必要に応じてオンラインでオプションサービスを解約したり、アップグレードしたりしてユーザの要望に合わせて柔軟に変えるように仕組みを作っていることが重要な点であり、顧客を引き付けて基本契約を解約されないようにしています。
そうすることで、通信キャリア会社は顧客から毎、安定した月収入を得る事が出来きます。
ユーザはスマーフォンから得られる色々な通話、音楽や動画配信、インターネットサービスなどが欲しいのであってスマートフォンというハードが欲しいのではありません。
このような考え方が他の製品にも広がっていくでしょう。
特に、車では既に起こりつつあります。それはカーシェアリングです。
車を所有するのではなく必要な時に車を使えればいいと考える人が若い世代を中心に広がっています。
移動の手段としての車は、モノを運ぶときや人が移動するときにあればいいという考えです。
更に自動運転が実用化になれば車は人が運転するものではなく、移動の間の車内で過ごす空間と時間での価値を求めてくるでしょう。
快適に過ごしたいとか、仕事に有効に過ごしたいとか、静かに休養したいとか、人によって違いますので、提供するサービスも異なるはずです。
スマートフォンのように自分の好きなアプリケーションをダウンロードして各個人が異なる目的、楽しみ方をするように車でも同じようなことが起こってくるでしょう。
これが本質的な価値の追求ということです。
従来のモノづくりとは全く異なる価値創造の時代になることを製造業の経営者は認識しなければなりません。
③SDGsの高まり
SDGsとは「持続可能な開発目標」と呼ばれ、2015年に国連サミットで採択されました。
そこで、地球規模の課題の解決に向けて、世界のあらゆる国、企業、人が2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットが示されました。
そこで扱っている内容は広範囲で多岐に渡りますが、人権尊重の精神が根本にあり、貧困飢餓の撲滅、平等、健康・福祉・衛生、教育、経済成長と働きがい、技術革新、平和、自然環境・資源を守り、お互いに協力して実現していこうとするものです。
世界の課題を共有しこれについて話せる共通言語、共通の目標ができた意義は大きく、以下のような意識が浸透し新たな価値観が醸成されていくと考えます。
浪費・消費・拡大から循環・再生・継続、共感、共有、協力、倫理・理念の優先 企業の戦略も、これまでの製品の一時的なヒットや薄利によるシェア獲得、規模に依る拡大戦略ではなくしっかりとした理念や価値観に基づく持続戦略に変えていく事が必要になるでしょう。
又、カーボンニュートラルを初め、環境や社会に配慮した企業に積極的に投資するESG投資が増えています。短期的な利潤一辺倒ではなく持続可能性につながるような取り組みを評価するものです。 すでに大企業では積極的にSDGsへ取り組む企業が増えており、今後取引先の中小企業にも影響が出てくる可能性があります。
このようにSDGsに取り組むことがリスクの軽減にもなる時代です。 これから中小企業でもSDGsを日本国内、更に地域や業界で抱えている課題と照らし合わせ、それを事業機会としてとらえることが大切です。
そもそも日本にはSDGsが目指す理念のDNAがあるように思います。
一つ目には、国土の狭い島国で生活するには、「物事は有限」だという感覚があり倹約、節約の習慣がありました。「もったいない」という言葉には倹約だけではなく、モノを大切にして感謝するといった感覚があります。
2つ目に、長い歴史の中で伝統や文化を守り継承してきた風土があります。
3つ目は、「お互い様、おかげ様」の意識、大乗仏教の利他の教え、近江商人の三方よしの精神(売り手よし、買い手よし、世間よし)、二宮尊徳の「道徳の経済の一元」、渋沢栄一の「道徳経済合一説」等、SDGsの理念に近いものが既に昔からありました。
4つ目は、世界でも日本には長寿企業が多くあることです。これらの長寿企業には、経営者が守るべき心得など継続していく為の秘訣が詰まっています。
④コロナ禍がもたらした変化
2020年に中国に端を発した新型コロナウイルスは瞬く間に世界中に蔓延し、多くの経済活動がストップしました。
その後、収束に向かい経済活動は活発に動き出しましたが、パンデミックの脅威は人類の記憶に刻まれると同時に様々な事を学びました。これからはコロナウイルスと共存しながら感染を拡大させないような新しい日常を創っていく事が必要になるでしょう。
製造業ではチャンネルの重要性が改めて認識されました。人、モノ、情報を流し移動する為の、コミュニケーションチャンネル、情報チャンネル、物流チャンネルです。そして、これらのチャンネルを最適に機能させるためにデジタル化が進展しました。
特に、各国、県、市町村、企業のトップのリーダシップ、意思決定の仕方、専門家との連携、国民一人一人の心がけと行動の在り方等、未知なるリスクに対する社会全体の対応力を問われているのだと感じます。
今回のコロナの影響をマイナス面だけを悲観するのではなく、もたらす変化をプラスに転じていくことが求められるのではないでしょうか。 気が付いたところを以下に挙げて見ます。
オンラインでのコミュニケーション、仕事の拡大、リモートワークで場所や時間に拘束されない働き方が増える。
企業はコスト削減ができ社員は通勤負担がなくなるなどメリットが実感されたことは大きく、積極的に導入する企業が増えでしょう。
そうなれば、勤務時間ではなく成果で評価される仕組みになると思われます。 更に、国境を越えた海外人材獲得やホワイトカラーも低い給与でも働く有能な海外の人との競争になります。
今回のテレワークで経験して分かったメリットは色々な規制の枠組みを変えて行くきっかけになります。
又、インバウンドに依存しない地域循環型経済の確立、「集中、依存、拡大、浪費」から「分散、自律、持続、循環」へのパラダイム変換等、企業はこれらの変化を前のSDGs貢献とつなげ、事業のベクトルを合わせる事で次の成長へとつなげることができるはずです